私たちの日常

6/12

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
の練習ごときでぶっ倒れるなんて。あんたは障害だなんて嘘だ、私を困らせるためにわざと怠けてるんだろう。チョウカクカビンなんて病弱気取ってんじゃねえ、甘えたれが」 苦い鉄の味を噛みしめる円に、母親は汚物を見るような目で吐き捨てた。 *  「いじゅうごぉウウンッうしんから…みがとど●□@ます。みぃちゃ#ピリリッ…あなたは…っきわあし*ての…かで…」  隣の席の同僚が洟をすすりながら、レースのハンカチを目に当てていることに、縁ははっと気づいた。それまで全神経を集中して、新婦の母親の口の形を凝視していた彼女はそこでやっと周りを見た。普段は小言しか言わない庶務のおばさんは派手な原色のハンカチを、セクハラまがいのスキンシップを毎日してくる課長代理は『日本英霊』というロゴが入ったハンカチを、それぞれ赤い目に当てている。 -まずい。また空気を読まない冷たい人だと思われる… 縁は式場の皆が、ただ1人周りとは違う反応をしている自分に気づく前に慌てて鞄を漁った。 「こ△あに…あな@が…っこんす●なんえ…パチパチ」  一瞬、周りの人に、断片的でもいいから新婦母のスピーチの内容を文字で書いてもらおうかと思った。と
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加