私たちの日常

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りあえず感動的なエピソードを述べているのは雰囲気で分かるものの、どんなにその声と口の形に集中しても、内容は半分も分からない。花嫁母の声はただでさえ小さく、嗚咽も入っていてこの上なく聞き取りづらい。ときおり混ざるカメラのフラッシュ音とすすり泣きの声が、音の取捨選択ができない縁の聞き取りをますます困難にさせる。せめて結婚に至るまでの経緯ぐらいは知っておかないと、結婚後も仕事を続けるという先輩に失礼だ。だがその思いは、感動に潤んだ目で他の出席者と頷き合いながら、ワインを飲んでリラックスしている様子の同僚を見て打ち砕かれた。とてもそんなことを頼める雰囲気じゃない。 「…わぁりまぁ、」「ワーーーッ」  突如沸き上がった拍手とどよめきに、スピーチが終わったことを知る。顔を上げると、新婦親族席の人と目が合って、にっこりと笑いながら会釈をされた。縁は自分も笑顔を作り返して拍手をしながら、内心は泣きそうだった。ただでさえ、何も分からない音声言語が飛び交っている中で、披露宴の雰囲気を壊さないよう全力で周りの状況を伺って合わせなければならず、しかも何も状況が分からないのに、人の笑顔に相槌を打たなければいけな
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