二夜 蜃の楼

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 しっとりと濡れた鴉の羽根のような黒髪も、射干玉の如き黒瞳も、小さく整った輪郭の中、際立って玲瓏に映えている。普通の人間とは、どこか雰囲気が違うのだ。その美しさでも、妖しさでも――。当人は母親似であると信じているが、きっと、父親にも似ていたであろう。もちろん、父親のことがとてつもなく嫌いな舜に取っては、決して認めたくはないことではあっただろうが。  夏の日の一日――。  彼は、山登りとも思えない軽装で、道なき道を進んでいた。  その表情は、喜々としている。  実は、この少年、太陽の光の届かない、こういう薄暗い場所が好きなのである。だからこそ、こんな鬱蒼とした山中にいてさえ、これほど清々しい顔をしているのだ。湿った岩土も、陰鬱に茂る重々しい樹木も、太陽の光とは正反対に、彼を労ってくれるものなのである。  そして、それは、彼の傍らを歩く青年にとっても、同じであった。  琥珀色の瞳をしたその青年、名前を、デューイ、という。  軽くウェーブのかかった栗色の髪を肩まで伸ばし、アジアの血が四分の一混じっているという彫りの深い面貌を、人の知る範囲の美で、彩っている。  一応、カメラマンを目指していた、というが、今はその夢を中断している。といって、彼が挫折した、という訳ではない。まだ二五、六歳の、若さに満ち溢れた若者である。  それなら何故、過去形になってしまったのか、ということが疑問になるだろうが、それは、街で暮らせない身になってしまったから、としか説明のしようがない。     
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