一夜 聚首歓宴の盃

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一夜 聚首歓宴の盃

「困りましたねぇ……」  言葉とは裏腹、ちっとも困ってなどいない惚けた口調で、銀髪の青年、黄帝(ファンディ)は、考えるように頬杖をついた。――いや、見かけは二七、八歳の青年だが、実のところ、彼が何歳であるのかは、誰も知らない。この世が天と地に分かたれた太初から存在している、と言われても、誰も驚きはしないだろう。いつからここにいるのかさえ、知る人間はいないのだ。  ここは、中国の山奥である。本当に、その一言で片付けてしまえるほど、山と谷しかない場所である。数十もの奇峰が雲海に浮かび、神秘的な山水画そのもののような景色だけが、続いている。  その起伏の激しい岩山を登り、さらに険しい絶壁を登った場所なのだ、ここは。  そして、その絶壁に張り出した頂の内部に、その青年の住居があった。岩を刳り貫いて造ったものではあるが、原始的なものでは、ない。さすがに電化製品は置いてないが、壁も床も大理石だったりする。  もちろん、どうやってこんなところに住居を造ったのかは、判らない。出入り口の外は、目が眩む高さの絶壁なのだ。雲海のせいで、地上の姿は臨めないが、何とも壮大な眺めであることは、間違いない。     
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