Karte.1 自己愛の可不可-水鏡

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Karte.1 自己愛の可不可-水鏡

「会社へ行く途中に、駅でお母さんらしい人を見たんです」  篠田悟(しのださとる)は言った。  彼は以前に自殺未遂を起こして、この病院に運ばれて来た分裂症(パラノイア)の患者である。――いや、日本では今、統合失調症と言うのだが。  まだ二五歳の青年であり、未来もあるというのに、今は春名(はるな)の患者として、この病院で治療を受けている。  そして、ここは、春名が勤める総合病院の精神科病棟にある保護室の一つである。自殺の懸念のある患者や、周囲に危害を加える可能性のある患者を収容する部屋、とでも言えばいいのだろうか。 「その『お母さん』というのは、歌手の折原ことり?」  春名は訊いた。     
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