Karte.1 自己愛の可不可-水鏡

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「愛してる、珠樹(たまき)……。俺とおまえは同じ人間だ……」 「ねェ、冬樹(ふゆき)。ぼくたちは何故、二つに分かれてしまったんだろう……?」 「分かれてなんかいないさ。俺たちはこうして一つに戻れる……」 「駄目……だよ、冬樹。また勃つ……」 「その時のおまえが一番きれいだ……」 「クスっ。冬樹だって同じ顔だろ」 「ああ。だからさ……」  丸みを帯びたデスクや椅子は、さながらトップ・オフィスの雰囲気を備えていた。  色数が少ないのは、病院だから、ということではなく、春名の――いや、仁の見立てによるところが大きい。  シンプルにまとめられたその一室は、春名の診察室でもある。そこで、 「心配なんです」  と、目の前の椅子に腰掛ける夫人が、言った。高級なスーツを身に纏う、四十代後半の婦人である。  沢向啓子(さわむかいけいこ)――。写真家の沢向順一郎(じゅんいちろう)の夫人で、彼女自身、学院を持つフラワー・アーチストとして活躍している。  だが、彼女は患者では、ない。  当の患者は、と言えば……来ていないのである。失礼なことに。 「何が心配なんですか?」  春名は訊いた。     
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