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「愛してる、珠樹……。俺とおまえは同じ人間だ……」
「ねェ、冬樹。ぼくたちは何故、二つに分かれてしまったんだろう……?」
「分かれてなんかいないさ。俺たちはこうして一つに戻れる……」
「駄目……だよ、冬樹。また勃つ……」
「その時のおまえが一番きれいだ……」
「クスっ。冬樹だって同じ顔だろ」
「ああ。だからさ……」
丸みを帯びたデスクや椅子は、さながらトップ・オフィスの雰囲気を備えていた。
色数が少ないのは、病院だから、ということではなく、春名の――いや、仁の見立てによるところが大きい。
シンプルにまとめられたその一室は、春名の診察室でもある。そこで、
「心配なんです」
と、目の前の椅子に腰掛ける夫人が、言った。高級なスーツを身に纏う、四十代後半の婦人である。
沢向啓子――。写真家の沢向順一郎の夫人で、彼女自身、学院を持つフラワー・アーチストとして活躍している。
だが、彼女は患者では、ない。
当の患者は、と言えば……来ていないのである。失礼なことに。
「何が心配なんですか?」
春名は訊いた。
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