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だが、それは沢向井夫人には眉を寄せることでもあったらしく――。いや、誘導が、ではなく、一から話を聞こうとする春名の対応が。
「あの――。霧谷先生からは何も?」
と、訝しげな顔で問いを向ける。
彼女の言いたいことは、「話は全部、霧谷先生にしてあるのに、なぜまた同じことを言わなくてはならないのか」、ということである。
「聞いていますよ」
春名は 紹介元のセラピストの名誉のためにも、そう言った。
何しろこの患者――いや、患者は息子の方なのだが――は、クリニックの美人セラピスト、霧谷笙子からの紹介でここに来ているのだ。
一卵性双生児の兄弟――。トップ・モデルの沢向冬樹と、弟の珠樹。その二人が患者である。
だが、さっきも言ったように、今、春名の目の前にいるのは母親だけで、当事者たる二人は来ていない。
「息子を入院させてもらいたいんです」
一足飛びな言葉で、沢向夫人は言った。
別に珍しいことではない。自分たちが持て余すものを、病院に押し付けようとする人間は、多くいる。
もちろん、自分たちだけで抱え込んで、一家心中になるケースも……。
「霧谷先生のクリニックでは入院設備がないのでこちらを、と――。お伺いしたらベッドも空いているということで」
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