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撮影開始!
5月。春の日差しが夏の色を見せて、汗ばむ陽気に包まれた日、とうとう撮影が始まった。その日は定休日だったので、スタッフ全員が見学に来ていた。
「ぜーったいに邪魔しない約束なんだからね!特に幸太!」
「なんで俺?」
「邪魔しそうだから、」
「それだったらサクラちゃんの方が心配でしょう!」
「いや、正直、全員心配…」
常盤麗音のファン、落ち着きのない高校生、天然主婦。見学者のラインナップを見て、私はため息をついた。
「今日見た事は絶対内緒。本当は見学なんか出来ないんだから!あと、きゃーとかわーとかスゲーとか、撮影中はリアクションすらダメなんだからね!分かって…」
「キャー!麗音…ッ!」
分かってる?と訊こうとしたら、突然サクラちゃんが叫んだので、私は慌ててその口を塞いだ。彼女の視線を追うと、大勢のスタッフの向こうに、ちょうど大家さんが車から降りて来たところが見えて。魅力的な笑みを浮かべ、スタッフさんたちに挨拶をしている。
外国人みたいだった金髪は、落ち着いたアッシュブラウンになっていた。
私の手の中で、サクラちゃんがモゴモゴと口を開く。
「て、店長、常盤麗音…!」
「知ってる、とにかく静かにして」
彼女の口を解放し、シーッ!と人差し指を立てると、彼女は小声で叫んだ。
「麗音が居るって知ってたんですか!」
「一応…」
「何で言ってくれなかったんですか!」
「極秘だから言えなかったの。学校とかで絶対言っちゃダメだよ…!」
隣に住んでるなんて言ったら、もっと怒られるだろうなと思いながら。必死で彼女を宥めた。ちなみに幸太はそこから終始不機嫌だった。
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