醜い娘

2/20
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 理砂子(りさこ)は腹を割いたまま絶望した。  灰色の羊水に塗れて自分にささげられる娘が、あまりにも醜い事に絶望したのだ。  看護師が「元気な女の子ですよ」と言うのを何処か遠くで聞いていた。 「捨てて下さい」と言えればどんなに楽になれるだろう。  もちろんそんな事は言える筈がない。理砂子はきつく目を瞑ってその醜い子供に触れる事を断固拒否した。  これからこの子供が自分の娘になるのか。考えるだけで気が遠くなる。  カンガルーケアの間だけ醒まされる麻酔が、また理砂子を冷たく暗い闇に引き戻す。  醜女(しこめ)の母となる自分。それはどんな責め苦よりも辛いものに思えて、理砂子は絶望の淵から身を投げる様にして意識を手放した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!