8/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
その言葉にひるみ、一瞬手を緩める。 彼女はその隙にドアを勢いよく開け、一目散に逃げ出した。 俺は足がもつれそうになりながらも、必死に追いかける。 彼女はエスカレーターを駆け下り、病院の玄関をスルリと抜ける。 俺も走るが、軽い身のこなしの彼女とは違うため、何度も人にぶつかりそうになる。 濡れたアスファルトを蹴り、駅舎に辿りついた泉さんは、 鞄についた定期券を機械にかざし、そのまま改札を抜けた。 俺もポケットからスイカを取り出す。焦っているからか、どうしてももたつく。 そうこうしている間に、例のアナウンスが響く。 「――間もなく、電車が参ります」 俺はようやく掴んだスイカ片手にホームへの階段を駆け上る。 彼女の後姿を捉えた時、すでに電車のドアは開いていた。 列の最後尾に並ぶ彼女が足を踏み出した、その時。 「須藤!泉さん!」 俺の全力の呼びかけに、泉さんがふと、振り向く。 俺は思い切り息を吸い込み、叫ぶ。 「好きだぁぁー!!」 思わず出た、その言葉。 彼女が目を見開き、一瞬足を止める。 その瞬間に、列車のドアが、ゆっくりと閉まった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!