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朝の電車内。窓から差し込む途切れ途切れの朝日。その朝日に照らされている真っ白なシャカシャカのジャージ。朝日に照らされても充分に開かない瞼。ドアの前の手すりに背中で体重を任せている私の天使は、ひどく眠そうだった。
意識し始めたのはいつからだろうか。それももう思い出せない。同じ高校だというのは肩からかけている部活カバンでよく分かる。中学は同じではなかったはず。ということは、高校生活が始まってもう2年以上にもなるがずっと同じ電車に乗っていたのだろうか。まさかそんな。気が付かないなんて。
こんな美男子他にはいない。身長も高いしキリっとした鋭い目はまるでアニメの主人公のよう。そう、私の中では主人公そのもの。私はいつでもヒロインになれるように準備している。
というのも、最近こうして彼と偶然か必然か同じ車両に乗れるようになってからは、あれやこれやと作戦を立てては実行に移している。わざと彼の近くでこけてみたり、彼が座ってる前で手すりに体重を任せて寝たふりをしてみたり。でも、どれも効果はなかった。だって、いつだって彼は眠っているんだもの。
眠れる電車の中は、今日も静か。誰だって朝早くの電車で喋ったりする前に眠ってしまう。不思議な催眠術にかけられた始発列車。でも自分が降りる駅が近づくと自然に起きられる。不思議な空間。夢心地でいられる電車。この素敵な時間のためだけに、私は意味もなく始発に乗り、教室で数時間も暇をつぶす。無駄なことかもしれないけど、そんなの人それぞれの感性だと思うから気にしない。
ドアの前にいる彼を見ながら反対側の端っこに座る私。この時間が長いようで短くて、ちょっぴり切ない。そして今日も、そのまま夢の世界へと吸い込まれていく。彼の顔を頭の中に描きながら。
「おい、ついたぞ」
誰かに呼ばれた気がする。聞き覚えのない低くて良い声。目の前には白ジャージの彼。え、まさか。
気づいた時には彼はもう降りていて。慌てて電車を飛び出した。
彼の瞼が開いてるの、初めて見た。
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