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お昼前の11時で幽霊だって溶けそうな暑さだ。
高い空から太陽がギラギラ照りつけている。
カラン。
透明なグラスの中で氷が涼し気な音を奏でる。水滴の向こう側に向日葵が揺れていた。
おれはグラスのミネラルウオーターで口を冷やし、パソコンのエディタを眺めた。
今しがた、投稿サイト用のホラー小説を書き終えたばかりである。
入選して賞金をゲットした時の喜びを妄想しながら、氷水をごくりと飲んだ。
椅子に座り直し、拙い表現や誤字脱字がないか見直す作業に入った。
夏休み。
夜の雑木林の中へ、小学生の男の子たちがカブトムシやクワガタムシを捕獲しに行く話。そういった類いの昆虫類は夜行性のため、夜の捕獲が好条件となる。しかし、雑木林の中は月の光も星の光も届かぬ漆黒の闇世界である。懐中電灯の光も及ばぬ暗さに恐れをなし、虫捕りは頓挫する。闇の中に誰かいる。少年たちは駆け足で家へ逃げ帰る。親たちから指摘される。背中に大人の手形がついているぞ、どうしたんだ?
後日、手形の正体を探ることになるのだが、子供たちが病気になったり、交通事故に遭ったりする。
そこはかつて呪いの森と呼ばれていたことがのちに判明するが、因果関係がはっきりしないのであった。
あらすじ的にはそんな内容だ。
読み返してみたが、どうもインパクトが足りないと思った。なんといっても怖さが足らない。
これでは読者が震え上がるまい。
(ちっとも、怖くないよー、アハハ)
などと哂われては、ミもフタもないではないか。
この話は、おれの子供時代の実話が元ネタなのだが、本当は、真実を書いていいものなのか躊躇している。
躊躇しているからこそ、真夏の日差しが照りつける部屋でホラー小説を書いたのだ。氷といっしょに幽霊も溶けてしまえばよろしい。
おれはふたくち目の氷水を口に含んだ。氷の塊をキャンデーのように舐めながら、頬づえをついた。
おれは背後に気配を感じた。
じっと見つめられているストーカー的な視線。
明らかに監視されている。
部屋の大きな窓は開放され、真夏の風が吹いてくる。白く強烈な日光が急斜面の角度から差し込み、部屋の薄暗さとの境界をくっきりと線引きしていた。
薄暗い部屋の片隅に幽霊が蹲っているはずもないのだが、そいつの気配を間近に感じるのだ。
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