その先を書いてはいけない・・・

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 あの懐かしい場所は、「あれ」と遭遇した場所でもあった。  パソコンのマップサイトを検索した。  あの雑木林一帯は、宅地開発されてマンションやスーパーが立ち並び、様変わりしているのだろうか。  サイトの画面が立ち上がった。  やはり、住宅地と商業施設に変貌していた。  おれは少しがっかりしたが、地図をスクロールさせてみた。  建造物や広い道路の画像が続いた。もう子供の頃の風景の面影はないようだ。  おしまいにしよう。画面を閉じようとしたら、突然、雑木林が映った。  あの時の雑木林だとすぐにわかった。  まだ残っていたんだ。  クヌギ、コナラ、ハゼ、ウルシ、クリなどが生い茂る雑木林。  アブラゼミやツクツクボウシの啼き声。  おれの記憶の糸が過去へ垂れていく。  クヌギの下で、大きな穴を掘っている富川さんがいた。  何してるの?  虫とり網を担いだ子供が訊ねる。富川さんはそれには答えず、  おお坊主、クワガタ捕れたか?  ううん。ぜんぜん。  そうか、昼間は捕れないか。  やっぱ、夜じゃないと捕れないよ。  夜はやめとけ。  ねえ、おじさん。そこずいぶんでかい穴だね。人がたくさん入れるね。何か埋めるの?  富川さんは急に怖い顔になってぼそりと言った。  死骸だよ、死骸。誰にも言うんじゃねえぞ。  うん・・・  あれは、富川さんの背後にいたんだ。  ああ、見るんじゃなかった。富川さんに話かけるんじゃなかった。  その後悔の糸は、現在も切れることなく繋がっている。  おれは行き場のない怒りを覚えた。忌々しくなって、パソコンをシャットダウンした。  とりあえず、昼飯でも食おうと思った
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