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体は動かないが、視界だけは360度自由だ。
雑木林の中は真っ暗だと思っていたら、天空は意外に明るい。朱色の満月、満天の星屑、黒い木々を蒼く染めている。
フクロウが飛んできて、でかくて丸い目玉でおれをのぞきこんだ。
やあ、こんばんは、ごきげんよう。
おれは話しかけた。フクロウはすぐに行ってしまった。
かち、かち。
歯が噛み合うような音。今度は、長い触角が自慢のミヤマカミキリムシだ。
意外に退屈しないな、と呑気にかまえていたら、森の奥から白い煙が湧いてくるのが見えた。
山火事だろうか。
火は見えない。白い煙は地面を這う生き物のように移動して、おれのそばまでやってきた。
おい・・・
おい・・・
誰かに話しかけられた気がした。
木々の葉がこすれあう音だと思った。
おい・・・
おい・・・
今度は、鈍く低い声がはっきり聞こえた。
ここで、何をしている。
視線をあたりに走らせたが、人の姿はどこにも見えなかった。凍るような不気味さだが、今のおれには身動きできない恐怖の方が大きかった。
白い煙がまるで生き物のように、おれの目の前を浮遊した。それは、のたうち、渦を巻きながら、宙高く乱舞した。
ひぃぃぃ・・・!
突然、どこからともなく、男とも女ともわからぬ悲鳴が木々の間を引き裂いた。
雲状の物体は流れるように、土に吸い込まれ、かき消えた。
おれはどうすることもできず、ただじっとしているだけだった。
薄青い光が、鋭い刃のように黒い森を薙いだ。
夜明けだ。
木々の影が森の奥へすーっと伸び始めた。
明るくなると、富川さんがスコップを肩に担ぎ、左手にでかくて重そうなバッグをぶら下げて現れた。
富川さんはおれの真下で立ち止まると、バッグおろし、穴掘りの続きを始めた。
ザク、ザク。
黙々と掘り、黒い土饅頭を積み上げていく。
時折、富川さんは穴掘りの手を休めて、満足げに大きく息を吐いて、水筒の水をぐびぐびと飲んだ。口からあふれた水が咽喉を伝わり、野良着の中へ浸み込んでいる。それから、おもむろにタバコに火をつけて煙をくゆらせた。
でかいバッグを開けると、中から黒い塊をつかみだした。黒焦げになった木片のように見えたが、ばらばらになった人形の手足にも見えた。
富川さんは両手でクレーンのようにつかんでは、バサバサと穴に放り込んいく。
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