0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
-前回までのあらすじ-
〈add.0〉を使いこなすため、自身の心の虚と戦うスズリ、ナタリア、コトハ。『母親を傷つけた過去』を乗り越え〈 add.0〉を完成させたスズリに対し、ナタリアとコトハはまだ出来ない。ゼロ化出来ないユウキも、〈制御解除〉を目指すが未だ至らなかった。そんな中、刻一刻と、レベル5〈忿怒〉の進行の日が近づく。
▽
灰色の空。灰色の世界。荒廃した都市。積み上がる死骸。
大量のキャンサーに囲まれて、その少女は地に伏していた。
これは過去の話。少女、コトハがまだキャンサーになって数ヶ月のある日。
距離を詰めてくるキャンサーに、成す術はない。
「死に、たく、ない......!死にたく、ないよ......!」
無線の向こうから名古屋支部の司令が叫ぶが、彼女にはもう聞こえてなかった。
泣きながら、ただ「死にたくない」と繰り返すコトハを、一体のキャンサーがつまみ上げた。
「ひぅ」と喉を鳴らした彼女は、ゆっくりとキャンサーの口へと運ばれて行く。
嗚呼。大きく開かれたその口が閉じられた時、彼女は呆気なく死ぬのだろう。
だが、そんな時は来ない。
キャンサーの腕を、何かが斬り裂いた。
同時、重力に任せて地面に落下するコトハを誰がが受け止めた。
「アンタ、大丈夫か?」
腕を裂いたのは深紅の槍。
彼女を抱いたのは深紅の髪の少女。
「だ、れ......?」
朦朧とした意識で、ぼやけた視界で、コトハは少女の顔を見た。
優しく微笑んでいた少女は、その特徴的なギザ歯を見せて大きい笑みに変える。
「待っとき。あいつら全員倒して来たるさかいな」
少女はゆっくりとコトハを地に降ろす。
そうしてキャンサーの大群へと、一人で歩いて行った。
地に刺さった槍を抜き、敵陣を駆ける彼女の姿は、
「きれい......」
▽
現在。
訓練室に、気合いの入った叫びが響く。
「はぁぁぁぁっっっ!!」
誰も遊ばない偽物の公園の中、 炎を纏ってオレは叫ぶ。
もっと火力を。もっと火力をと身体の熱を上げていく。
遺言霊を使うオレに、ゼロは使えないらしかった。しかし代わりになるものはある。
最初のコメントを投稿しよう!