おじさんに言いくるめられ

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おじさんに言いくるめられ

 僕がその店でハゲタカを売っているのを見つけたのは単なる偶然だった。ショッピングモールの片隅にある、あまり人通りもないあたりの小さな店。僕は特にこれと行った目的のないまま、時間を潰すためにその店に足を踏み入れたところだった。  店の陳列ケースの宿り木には、ハゲタカたちがおとなしくとまったまま、客たちがじっくりと品定めする視線を浴びていた。 「いやあ、お客さん。お目が高いですよ。そのあたりに並んでいるやつは、一週間前に仕入れたばかりのハゲタカでしてね。今がいちばんイキがいい頃合いですよ」  店のおじさんが僕にそう声をかけた。 「ハゲタカねえ……。せっかく買っても、もてあますんじゃないかなあ。だって僕はひとり暮らしだし、生ゴミだってそんなに出ないから」  店のおじさんは僕の言葉に、お前はなにもわかっちゃいないと言いたげに首を振った。 「いやいや、お客さん。このハゲタカたちは従来の生ゴミ処理だけじゃなく、不用品ならなんでも食べてくれるように品種改良した最新型のやつなんですよ。  生ゴミはもちろん、古新聞古雑誌、空き缶やペットボトル、いらなくなった家具も家電、それに使い終わった乾電池。なんでも食べて処理しちゃう。  この一羽さえいれば、これからはもうゴミを捨てる手間はかからない。エサだっていらない。ゴミを食べた後のフンを始末するだけ。  お客さん、こんな便利でエコなハゲタカ、今買わないでいつ買うの?」  けっきょくおじさんに言いくるめられ、僕は品種改良された最新型のハゲタカを一羽買うことになった。
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