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「――――ッ!!」
僕は悲鳴を上げて飛び起きていた。恐ろしい――恐ろしい夢を見ていた気がする。全身がぐっしょりと濡れている。ぜえぜえと自分の声が耳障りでならない。此処は何処なのだろう。見上げた天井は臙脂色をしている。くすんだような赤に、まるで見覚えがない。いつの間にこんなところに移動したのだろう。そもそも僕は――死んだはずではなかったのだろうか。
「え…え?な、何、ここ…」
掠れたような声に、驚いて喉元を抑えた。声が、出た。今まで一言も喋ることが出来なかった僕が。どういうことなのか。それとも僕はまだ、夢の中にいるのだろうか。
やっとこれで、地獄から解放されたと思ったのに。これでもう――痛い思いも、苦しい思いもせずに済んだと思ったのに。
――落ち着け…落ち着くんだ。何が一体、どうなってるんだ?
胸に手を当てて、ゆっくりと息を吸い込んだ。――おかしなことだらけだ、何もかも。だが、ひとまずは記憶を辿る方が先決である。此処に来るまで、自分は一体何をしていただろうか?自分の身に、一体何が起きたのだろうか?
――えっと、えっとたしか…。
暗くて狭い、明りひとつない部屋。そこが僕に与えられた部屋だった。初めてそこに来た時には、他にも何人か住人がいたのだが。気がつくたびにその顔は変わっていき、最近ではついに一人になってしまったのである。みんな殺されたのだ、とすぐに分かった。思い至るのも当然だ。自分達の主人として選ばれたのは――とても残酷な少女だったのだから。
自分達は、彼女の奴隷として連れてこられたのだ。初めて部屋に来た日に、僕はそれを思い知らされたのである。
『初めましてぇ、ジャックー』
ジャック――それが、僕の名前である。彼女はニタニタと笑いながらまず最初に――震える僕の体から、衣服を剥ぎ取ってしまった。奴隷の分際でこんな可愛い服なんて有り得ないでしょ、とのことらしい。僕は信じられない気持ちで、ボロ切れになってしまった服を見つめていた。――泣きたくてたまらなかった。だってあの服は、あの人が――僕を愛してくれた彼女が可愛いと誉めてくれた、自慢の服だったのに。チェックのシャツも、青いズボンも、あんなにビリビリにされてしまってはもう二度と着ることなどできない。
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