<第一話>

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――まさか、こいつ…僕に一生裸で過ごせと言うんじゃないだろうな…!?  そのまさか、だった。新しい服を身繕われることもなく、僕はその日全裸で――一日中、殴られた。彼女は最初からそのためだけに僕を買ったのだ。奴隷にするために。イライラした時のサンドバックがわりに僕を使うためだけに。  僕の身体はあっと言う間に傷だらけになって――最後はあの、冷たくて暗い部屋に投げ込まれた。部屋の中には同じようにボロボロになった子供たちが、ガタガタと震えながら佇んでいて。がちゃん、と部屋にかけられた鍵の音に――僕は運命を悟ったのである。ああ、僕は此処で死ぬのだ、と。こんなはずではなかったのに。あの人が望んでくれたように――新しいご主人様にめいいっぱい支えて、その人と毎日笑ってご飯を食べたり眠ったり、辛いときには慰めたり一緒に遊んだり――そんな幸せな毎日を過ごせるはずだと、そう信じて疑わなかったというのに。  きっとあの人は、何も知らなかったのだろう。  僕が優しいご主人様に貰われていったはずだと、本気でそう信じていたに違いない。そうでなければ彼女が、僕がこの家に来ることを許したはずがないのだから。 ――僕は閉じ込められて、逃げられなくて…毎日毎日殴られて傷だらけになって…。ついに…。  僕の右目は、完全に見えなくなってしまった。ぶちり、と目玉が千切れる音を聞いて、激痛に悲鳴を上げたのをよく覚えている。ご主人様ががそれを、とても楽しそうに笑ってみていたことも。 『わー、ついに一つ眼小僧になっちゃったー。かわいくなーい。ていうか、あんたすっごくきたなーい!』  もはや、僕の名前さえ呼んでくれなくなった彼女は。僕の身体を引きずって屋敷の中を歩いていった。彼女の使用人達が何人もこちらを見ていたが、誰も僕を助けてくれようとはしない。こんなに痛いのに。こんなに僕は苦しんでいるのに。彼らが考えていることは明白だった。――厄介で残酷なお嬢様のご機嫌を損ねず、今まで通りお給料をもらい続けること。奴隷の一人や二人、駄目になったところで彼らは一切気にしてなどくれないのである。
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