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「どうして、僕と同じ夢を見たと思ったの? どうも、確信してたみたいだけど」
んん、と山城は噛みながら唸って、飲み込んでから答える。
「昨日の夜ね、寝てたら誰かに呼ばれたの。男の人の声で、こっちにおいでって。夢だろうと思って、そのまま声のする方に歩いていったら、景色が変わって、豪介が現れた。君はまったくの別人みたいだったけど、いつも見る夢に比べて現実感がありすぎたんだよね。草の匂いも、アップルティーの味も。豪介の背中の頼りない感触も憶えてたし、朝起きても君の声が耳に残ってたの。今の今まで実際に話してたみたいに」
さりげなく酷いことを言われた。それは事実だから仕方がない。
「もしかしたらと思って今朝声をかけたら、豪介が後ろめたいような目をしたから、やっぱりそうだって確信したんだ」
山城は悪戯を成功させたおてんば娘のように笑みを浮かべた。僕はどんな顔をして何を言えば良いのか分からず、ただ照れたようにニヤニヤしていた。自分の顔が紅潮していることだけは分かった。
「……ごめん、現実だと、上手く喋れなくて。特に女の子とは……」
なんとか言葉を絞り出して謝ると、背中をぽんと叩かれた。
「そんなこと気にしないで、夢の中と同じようにしゃんとしてなさい。それと」
「それと?」
「ユミカって呼んでよ」
僕たちは弁当を食べながら、妙なこともあるものだと昨日の夢を振り返った。ユミカが写真家を目指しているのは本当らしい。彼女が夢の中で見せてくれた写真は、現実のスマホにもすべて収められていた。
僕の特技については話さなかったが、ユミカは「また、夢で会えたらいいね」と言った。その言葉は僕の胸を騒々しくさせた。社交辞令だと分かっていても、そう思いたくはなかった。
放課後、特に挨拶を交わすでも、一緒に帰ったりするわけでもなく、僕たちはいつもどおりそれぞれの帰路についた。僕は当然、その夜もユミカに逢いたいと考えていた。思い上がりには違いないが、ユミカとの縁に運命的なものを感じていたのは確かだ。
僕が石ころならば、ユミカは夜空の星だった。石ころが星に憧れたところでどうなるとも思えない。それでも、宝くじだって買わなければ当たらないのだから。
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