火曜日(2)

2/2
前へ
/39ページ
次へ
「どうして、僕と同じ夢を見たと思ったの? どうも、確信してたみたいだけど」  んん、と山城は噛みながら唸って、飲み込んでから答える。 「昨日の夜ね、寝てたら誰かに呼ばれたの。男の人の声で、こっちにおいでって。夢だろうと思って、そのまま声のする方に歩いていったら、景色が変わって、豪介が現れた。君はまったくの別人みたいだったけど、いつも見る夢に比べて現実感がありすぎたんだよね。草の匂いも、アップルティーの味も。豪介の背中の頼りない感触も憶えてたし、朝起きても君の声が耳に残ってたの。今の今まで実際に話してたみたいに」  さりげなく酷いことを言われた。それは事実だから仕方がない。 「もしかしたらと思って今朝声をかけたら、豪介が後ろめたいような目をしたから、やっぱりそうだって確信したんだ」  山城は悪戯を成功させたおてんば娘のように笑みを浮かべた。僕はどんな顔をして何を言えば良いのか分からず、ただ照れたようにニヤニヤしていた。自分の顔が紅潮していることだけは分かった。 「……ごめん、現実だと、上手く喋れなくて。特に女の子とは……」  なんとか言葉を絞り出して謝ると、背中をぽんと叩かれた。 「そんなこと気にしないで、夢の中と同じようにしゃんとしてなさい。それと」 「それと?」 「ユミカって呼んでよ」  僕たちは弁当を食べながら、妙なこともあるものだと昨日の夢を振り返った。ユミカが写真家を目指しているのは本当らしい。彼女が夢の中で見せてくれた写真は、現実のスマホにもすべて収められていた。  僕の特技については話さなかったが、ユミカは「また、夢で会えたらいいね」と言った。その言葉は僕の胸を騒々しくさせた。社交辞令だと分かっていても、そう思いたくはなかった。  放課後、特に挨拶を交わすでも、一緒に帰ったりするわけでもなく、僕たちはいつもどおりそれぞれの帰路についた。僕は当然、その夜もユミカに逢いたいと考えていた。思い上がりには違いないが、ユミカとの縁に運命的なものを感じていたのは確かだ。  僕が石ころならば、ユミカは夜空の星だった。石ころが星に憧れたところでどうなるとも思えない。それでも、宝くじだって買わなければ当たらないのだから。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加