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ビーチの光景は、幼い頃に行った海水浴場の記憶を基に、写真や映像で見た海外のリゾート地をイメージして構成されていた。もちろん僕たちだけのプライベートビーチだ。
どこまでも続く砂浜の真ん中に絨毯を降ろし、そのまま陣取った。目の前には澄み切った海と、雲一つ無い晴れ渡った空、そして、果てしない水平線が広がっている。ユミカはしばしその光景に見入っていたかと思うと、スマホを取り出して写真を撮り始めた。何枚か撮って見直し、難しい顔をしている。納得がいかないようだ。
「カメラ、持ってくれば良かったな」
ユミカは残念がった。スマホのカメラも高性能化しているとはいえ、やはり本格的なカメラで撮るものには及ばないのだろう。
僕はカメラをぽんと出してユミカに手渡した。どんな物が良いかわからないので、父が持っているデジタル一眼レフとかいうものをイメージした。ユミカは興奮してカメラを四方八方から点検している。
「すごいよ、豪介」
写真家の血が騒ぐのか、ユミカは早速ファインダーを覗いて撮影を再開した。背面の液晶で何かを調整したり、撮った写真を確認したりと夢中になっている。もしかしたら、彼女の知識がカメラの性能や機能に反映されているのかもしれない。僕はカメラのことなどほとんど知らないのだ。
ユミカは僕がいるのを忘れたかのように、一心不乱に写真を撮りまくっている。僕はそんな彼女に見とれていた。好きなことに打ち込んでいる人が輝いて見えるというのは本当らしい。
満足したのか、あるいはくたびれたのか、ユミカは腰を下ろして一息ついた。オレンジジュースを差し出すとおいしそうに飲んだ。あとは水着に着替えてくれれば言うことはなかったが、頼んでも好い顔はされないだろう。
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