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「写真、好きなんだね」
僕が言うと、ユミカは笑って「そう言ったじゃない」と応えた。
「いや、僕が思ってたよりもずっと、ってこと」
ユミカは目を伏せ、口元に微かな笑みを浮かべた。そして、膝に載せたカメラを愛おしそうに撫でた。
「……好きなときに好きなだけ写真を撮っていられたら、人生がどんなに楽しいだろうって思うの。でも、生きていくためには、お金を稼がなくちゃいけないでしょ? もちろん、別の仕事をしながら生活費を稼いで、空いた時間で写真を撮るのが現実的だと思うんだけど、自分の写真がお金になって、それで生活できれば、写真を撮り続けられるでしょ? だから、私は写真家になりたいの。夢見過ぎかな?」
そう述べたユミカに、僕は首を横に振って、「そんなことないよ」と応えた。
「何にだって、なろうと思わなきゃなれないさ」
「ふうん。豪介、いいこと言うじゃん」
満足そうに微笑んだユミカは、もう一口ジュースを飲んでから、小さく溜息をついた。
「嫌だな、したくもない勉強や結婚なんて」
海を見つめ、哀愁を漂わせるユミカの横顔は絵になった。それこそ、カメラに納めたいと思うほどに。
波の音にかき消されたように、僕たちは言葉を失い、ただ海を眺めていた。ずっとこうしているだけでも良いと思った。
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