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「どうしてうまくいかないんだろう?」
僕は呟いた。山城に対してではなく、ただの独り言として。
「川相君、夢の中だと普通に喋るのね。いつもは無口なのに」
山城は感心した様子で言った。
「自分の夢の中じゃ、誰にも遠慮する必要がないからね。そうそう、今は豪介って呼んでよ。名前負けしてるかもしれないけど」
「あら、男らしい。じゃあ、豪介、私のこともユミカって呼んで」
キャラ変わりすぎでしょ、とユミカは笑っている。彼女の言うとおり、僕は夢の中では開放的な気持ちになり、誰に気後れすることもなかった。こんな風にありのままの自分でいられれば、現実世界も楽しいのだろうが。
「ねえ、喉が渇いちゃった。どこかお茶できるところはないの?」
恋人に甘えるという程ではなかったが、気を許したような口ぶりでユミカが言った。やはり彼女は僕のコントロールを受け付けなかったが、好意的なのはせめてもの救いだった。
「案内するよ。それっ」
僕はさっと空飛ぶ絨毯を出現させ、足下に広げた。アニメ映画で見たような、青地に模様が描かれている絨毯だ。手を取って乗せてやるとユミカは大いに喜んだ。それは僕の考えた筋書きに近い反応だった。
風を切り、高く舞い上がるとユミカは怖くなったのか、背後から腕を回し、僕の背中にしがみついた。彼女の胸はそれほど豊かではなかったが、柔らかい感触や温もりに僕は鼻の下を伸ばした。思ったとおりにならなくても、これはこれで良いものだった。
そんな風に、何だかんだで僕はこのハプニングを楽しんでいた。現実でも女の子と一緒に過ごせばこんな気持ちになれるのだろうか。そんな愚にもつかない思いを抱きながら、僕は絨毯を飛ばした。
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