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ユミカはまた意地悪な顔をしたが、咎めるつもりはなさそうだ。一方の僕は恐縮し、彼女と目を合わせられなかった。自分の夢の中の出来事なのだから、気にせず堂々としていれば良いのに、何故か現実的に反応してしまう。きっと、本物のユミカが目の前にいるように感じられるからだろう。
「本当は、大学で写真の勉強をして、プロになって、写真を撮りながら世界中を旅するのが夢なんだけど……」
「素敵だと思うけど、何か問題があるの?」
言いよどむユミカに尋ねると、彼女の表情は曇った。
「うん、親がね。うちは両親がかなり厳しいんだけど、大学に行くなら文学部か何かを出て、卒業したらすぐに結婚しなさい、とか言うわけよ」
「結婚? そんな、大学出てすぐって言っても、相手がいなきゃできないし……」
「いるんだな、これが」
呆れたようにユミカが言った。僕は意味が分からず、その先の言葉を待った。彼女はアップルティーを一口飲んでから続ける。
「何だか知らないけど、許嫁ってのがいるんだって。親が勝手に決めちゃってるのよ。私、その人と会ったこともないのに」
そういえば、ユミカの家はお金持ちで、彼女はお嬢様なのだと、学校で誰かが話しているのを聞いたことがあった。もちろん、現実のユミカに許嫁がいるのかは分からないが、そんな風習が今でも存在しているのだろうか。それとも、上流階級においては当たり前のことなのだろうか。
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