▲1三桂

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「『二次元人』は我々『三次元人』を取り込み、自らの世界を構築しようと目論んでいる。今は水面下で粛々と進行しているようだが、顕在化した時にはもはや手遅れのはず。ならばどうするか。答えはひとつ」  老人が手を伸ばして何かを突きつける仕草をすると、何だか水戸のご老公を想起させるな……と、早くも現実逃避を始めた僕の大脳だったが、いや、翳すのはお供の仕事だったっけ? と詮無いことを頭に思い浮かべつつ、空想より現実感の無い現実へと何とか意識を引き戻す。  僕の眼前に突きつけられたそれは、見慣れた五角形の、将棋駒の形をしていた。ただ、材質は木やプラスチックとは明らかに異なっているため、少しの違和感を抱く。  黒い金属。先ほどの映像で見た、あの「将棋ロボ」たちのような、そんな感じだった。大きさは手の平に収まるくらいの、よく解説などで使われる、大盤用の駒くらいほど。何だこれ。 「奴らの持つ『能力』を……切り捨てた『要素』を!! ……利用して私が作り上げた。奴らに対抗するための力を得る……二次元の盤上を躍動する戦士へと変身するための、名付けて『ダイショウギ×チェンジャー』」  異次元の言葉を紡ぎ続ける老人だったが、清々しいほどに直球な、その名前に何故か強く惹かれた自分がいる。「変身」……ダメな自分から、変われるのならば。 「君に呼ばれて私はここに来た。この『駒』が君へと誘った。可能性を秘めた君よ。最強の戦士、『レッド獅子』となり、奴らを喰らい屠りつくすのだっ!!」  最後高らかに言い放った老人だったが、「レッド獅子」。そのネーミングはどうかと思う。  しかし突きつけられている「駒」に記された荒々しい書体の文字もやはり「獅子」。こんなの見たこと無いが。しかし。  その文字が、僕の呼吸に呼応するがごとく、燃え滾る炎のように揺らめき光り輝いているのを、確かにこの目で見た。  僕の運命の歯車が、廻り始めた瞬間だった。
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