▲4四悪狼(あくろう)

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「……難しく考える必要はないんじゃあないかなぁ、ミロカくん。『間合いが変化したように感じた』、それが錯覚じゃないとしたら、いや、『錯覚と錯覚させられている』のだとしたら?」  波浪田(ハロダ)先輩が椅子にふんぞり返ったまま、金色の毛先を指で弄びながら、そんな間の抜けた言葉を発するけど。どういう意味だ? 「……まさか」  しかしその言葉に、ミロカさんは思うところがあったようだ。普段はめったに目を合わせることのない先輩の顔を驚愕の眼差しで見やる。  先輩は満足そうに、にやりとすると何故か立ち上がって両手を広げてみせた。ミュージカルのような、いやそれは失礼か、学芸会のようなノリだ。もともと芝居がかっている人間がさらにそれを助長するような仕草をすると、何もかもが嘘くさくなるということを、今日僕は学んだ。しかし、 「やつらが実際に大きくなっている、と見るのがいちばん自然さぁ。実際に間合いやら何やらも変化していた、と」  正直、的を射た答えと思った……口惜しいことに。そしてその証明が真であることが即時示されることにもなるのだが、それが我々にとって何になるのか、いや、かなりの確率で悪いことになるに違いないのだろうが、それはこの時点ではもやもやとしていて、くっきりとは判別できない。「駒」たちがその大きさを増大させていること……それがどうなるのか。もごもごと咀嚼しつつも嚥下できない僕の思考はそこで止まってしまったのだったが、その時だった。 <新宿駅南口周辺にて、『イド』を確認っ!! えっ? これ、これって……>  突如会議室に響き渡る、もはや耳慣れた警告音。しかしそれに続くオペレーターさんの声は、いつものやる気のない感じとは異なり、何か緊迫感を孕んでいる。場に、得も言われぬ「重さのある空気」みたいなものが淀んでくるかのように。それは、 <目標は98%の確度で『ホリゴマンダー』……しかし、イドの範囲が約600mくらいありますっ!!>  「二次元人」たちの、本格的な侵攻が始まった瞬間であった。
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