△4五嗔猪(しんちょ)

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 通常というか、今まで発生した「イド」の範囲は「半径50メートル」だった。おそらく一度の例外も無く。しかし今回はその「6倍」。いきなりのその変化に、不穏な空気をいやが応にも感じてしまう。他の皆も顔を強張らせつつ、会議室のスクリーンに映し出されたJR新宿駅付近の地図を見ている。 「『南口』を中心として半径300メートルの範囲って、駅ほぼ含まれるやん……」  フウカさんがいつもの余裕や悪戯っぽさを挟んだ表情や口調からはほど遠い、真剣な目つきと口調でそう漏らす。「イド」範囲(『SGフィールド』と呼称されていた。定着していないような気はするけど)を示しているのだろう、赤く塗りつぶされた円は、すっぽりと駅を覆っている。 「『SG波』も今までとはケタ違いだ。単純に見積もって『6倍』の面積があるフィールドが展開されると思われる。そして……『SG因子』もおそらくは『6倍』となろう」  嘉敷博士も重々しい声でそう告げて来るが、ここに来て初出の単語群に翻弄され、規模的に「6倍」ということしか理解できない。いや、それだけでいいのかも知れないが。ともかく、これまでとはケタ違い、そのことだけを認識しておけばいい、いや、しておかなければならないということだ。 「引きずりこまれる人間も……増えるってこと? それこそ『6倍』とかに」  ミロカさんが眉間に皺を寄せながらそう呟くかのように訊く。それに対し、おそらくとの言葉を返す博士だが、今までの最大が「20人」とすると「120人」。そのくらいの大人数がひとところに引き込まれるとなると……別の懸念、パニック誘発、みたいなことも気にかかってくる。
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