▲4八飛龍(ひりゅう)

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 「裂け目」を潜った僕は、今回はゼラチン質のハンマーで頭を殴られるような感触を覚えた。何だろう、毎回違う感覚に襲われるが。とにかく切り替わりの合図のようなものを受けて、僕の緊張と昂揚は高まっていく。  暗転と広がりを同時に感じた空間は、もはや慣れ親しんだ、宇宙空間のように星々が散らばる「スペース」だ。だが、いつもなら整然と「枡目」として盤面を形成する白いレーザービームのような「白線」が、くしゃくしゃにされた紙テープのように、無秩序に張り巡らされている光景が、そこにはあった。  まるで蜘蛛の巣……だがそこに待ち構えていたのは、八本脚の捕食者ではなく、黒い金属質の五角形のボディを暗黒に溶け込ませた、「駒」たちの大軍だった。 「何これ……」  思わず出た声は驚きと恐怖を孕んでいるかのように聞こえた。上空から無重力の中を浮遊するような感覚があってから、僕ら6人は「白線」がうねる「盤面」に降り立つ。いつもは完全な平面であるゆえ、今の整地されていないガタガタのフィールドにしばし戸惑う。  しかし変化としては、それは生易しい方だった。近づくにつれて分かったが、「敵」の大きさが今までと明らかに違う。先ほど「現世」に這いずり出ようとしていた「歩兵」も4~5mの体長はありそうだったが、いま、対峙しているやつらもそれくらいか、あるいは「大駒」らに至ってはその名の通り、それ以上のうすらでかさを持って、狭く感じる盤上にひしめいている。  いつもなら「本将棋」を忠実になぞるかのように、20枚が整然と並んでいるのがデフォルトなのに、今は雑然とただ群れているといった感じだ。駒数もおかしい。20の倍は……いるんじゃあないか?
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