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「……」
真顔のまま固まってしまった僕だが、目の前で印籠然としたものを突き付けている老人もまた、固まっていた。僕の返事があるまでは、物事の諸々を先に進ませないというような強い意志を感じる。
しかし、こんな物騒な言葉をぶん回して、通告されないものなのだろうか。
「……迷うな、少年。私は君のような『強き者』を求めてさすらっていたのだ、この……四か月余りの間」
何だろう、中途半端な短期間だな。いや、論点はそこじゃあない。
「……自分は、弱いですよ。高三で七級っていう、そろそろ本気で心配されるレベルの。親だって、もう何も期待していない、生粋の落伍家真打なんです」
中一の弟の方が遥かに強い。そして彼の方が両親の期待を一身に背負ってる。僕は……家族のお荷物でしかない。
「将棋の話では無い」
しかし、老人は思いがけず強い目つきをすると、先ほどからの突きつけ姿勢のままで言い放った。
「いいか少年、棋力に勝る『二次元人』に将棋で挑むのはこれ愚策。負けたら死も覚悟しなくてはならない戦いに、そんなクリーンな精神は不要だ」
だんだん、この老人の言いたいことが分かってきた。よく見れば高齢の割に引き締まった筋肉質のいいガタイだ。まさかこの人も。
「君に希望を見出したのは、その身体に他ならぬ。今日び、そこまで無駄なく鍛え上げられた肉体に出会ったことはない。闘いに必要なもの、それは力」
ちょっと陶酔し始めてきた目だけど、言ってることは凄く腑に落ちる。そうだ、将棋が、全てじゃあない。でも、
「し、しかし、その『二次元人』ですか? に、殴ったり蹴ったりの格闘が効くものなのか……」
相手は得体の知れない化物だ。見た目の質感でも、金属質で硬そうなイメージだよね……殴ったりしたら、こっちがダメージを受けそうだ。
「堅固なボディ、そして……奴らには絶対無比の攻撃、『一手』と呼ばれる次元を超越した一発がある。まともに相対しての近接格闘、これも愚策」
おい! と突っ込みたくなるところだが、あるんだろう、それを凌駕する、方法が。
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