△5二水牛(すいぎゅう)

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 倒せども、倒せども、敵の数は減らじ。  対局開始から30分は経っているんじゃないか? そろそろ僕らの息も荒くなり、動きも鈍くなって来ている。そんな中、 「……もしかして、倒された仲間の破片を吸収することで、自らの体を大きくしていって……いませんか?」  思わずナヤさんが素に戻ってしまうほどの、衝撃的な事実が告げられたわけで。確かに、「奴ら」の元々でかかった五角形のボディは、今、さらに巨大さを増しているように見える。最小の「歩」ですら二階建ての建物くらいはあるんじゃないか? そして倒しても倒してもその背後から新しいのが、より大きな体躯を持ってにじり出て来る。これは本当に……キリが無い。いや、どころかジリ貧なんじゃ…… 「……」  最前線でずっと気張って闘ってくれていたミロカさんも、遠目でも肩で息をしてるのが分かる。いくら摩訶不思議なパワーにより強化されているとは言え、中身は生身の人間だ。疲れもするし、終わりの見えなさに絶望もする。  歪んだ「九×九」の盤上には、我々が6人と、敵駒がぱっと数えて40余り。倒していくこと自体は問題は無いが、体力の方が限界だ。退却とか……出来ないのか? 「……盤上の『王様』を倒せば終局となるが……そいつがまだ姿すら見せていない」  波浪田(ハロダ)先輩も流石に普段のちゃらんぽらんな居住まいは引っ込め、苦渋のつぶやきを漏らしている。その言葉通り、今まで数百は沸いて出て来た「駒」たちの中に、敵将、「玉」だけは姿を現していない。今までには無かったことだ。意図的……いや、でも「誰」の意図だって話だが。 「……盤上全部の駒を全て倒しきれば……あるいは」  沖島(オキシマ)の推察はしかし、向こうの超絶「補充」能力があるから、実現は困難だ。疲れ切ったこの身体では、一体を倒しきるのがやっと。その隙に、奴らの背後に口を開けた、時空の裂け目みたいなところから新しい奴が現れ出て来る。今までよりも一回り大きなボディとなって。  じゃあその「裂け目」に突っ込んで「玉」の首を上げれば……? 僕の提案に、なるほどええんちゃう? と褒めてくれたフウカさん他、疲れ切った様子の一同も賛同してくれる。
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