△5二水牛(すいぎゅう)

3/3
前へ
/222ページ
次へ
「だが……もう突入するだけの力が無い」  ミロカさんは冷静だ。冷静に、この「作戦」が机上のものであることを指摘してきてくれる。でも、それ以外に手は無いはず。ならば…… 「僕が行きます」  自然とそう口をついて出ていた。そう、非常に分の悪い賭けだが、勝算がゼロではない「方法」が僕にはある。 「あんただって限界でしょ!? ……中途半端に突っ込んでも犬死にしかならない」  ミロカさんは一瞬、感情を滲ませつつも、やはり冷静な指摘だ。だが…… 「……」 「!!……ちょっと、モリくん!?」  沖島が悲鳴のような声を上げたのは、僕が自発的に「変身」を解いたからだ。この局面での解除……自殺行為に見えたかも知れない。あるいは、そうなのかも知れないが。微かな光と共に、僕の全身を覆っていたスーツは、丹田辺りに位置していた五角形の黒い「ダイショウギ×チェンジャー」へと収納されていった。 「大丈夫。今こそ……我が封印されし力を解放する時……」  改造学ラン姿に戻った僕は、おもむろにその上着を脱ぎ捨てる。ドシャ、みたいな鈍い音を立てて、その15kgの重さを誇るオーダーメイドが、盤上に落とされた。続いて両手首の10kgずつのリストバンドもその上に投げ落とす。  赤のタンクトップを上から締め付けるようにして、バネの集合体……「大棋士養成ギプス」が上半身を覆っていたが、これも外す。重力が、半分以下になったような感覚。いける。 「……中途半端には突っ込まない。玉は最奥。ならばそこまで身一つで駆け抜けるだけ」  決まった。僕の果敢かつ勇猛な決意の言葉に、傍らの四女子が貫かれた(ように感じた)。  だがしかし。 <おおーい、待つのだ鵜飼(ウガイ)くぅぅん、そんなのよりも、もっとうまい手があるぞよぉぉ……ぞよぉぉ……ぞよぉぉ>  いきなり間の抜けた声が、無駄なエコーを伴って響いた。僕の「チェンジャー」からだ。博士……これそんな通信機能みたいなのあったっけ? 初めて知った。いやそれよりも「そんなの」とは何だ!!
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加