△5六飛将(ひしょう)

2/3
前へ
/222ページ
次へ
 黒い巨大な駒たちが林立し蠢いている、僕らにとってはもう見慣れた、しかしまともに考えたら相当異様な光景の中、ひとり静寂を身に纏わせながらも同時にこちらを圧倒してくるかのような冷たいオーラを発しながら、その「人物」は佇んでいた。  三十代くらいの痩身の男だ……整えられた黒髪は一筋はらりと、その聡明そうな広い額にかかっており、銀縁の眼鏡の下の一見柔和な目は、奥にぞっとさせるほどの鋭さを孕んでいる。  身に着けた紋付羽織袴がしっくり馴染んでいるが、対峙しているだけで何というか「圧」を感じる。いったい……? 「ようこそ……我が居城へ」  と、いきなりその男が口を開いた。どこか笑みを含んだかのようなその物言いに、僕以外の面々の顔がひきつったかのように見えた。皆、僕の許に力無く集まり、動きを止めてその男の所作に見入っている。どうしたっていうんだ。 「なぜ……貴方がここにいる」  硬い声のまま、波浪田(ハロダ)先輩。さっきからずっとシリアスモードですけど。みたいな軽いつっこみすら入れられないような緊迫感が、その男と僕の仲間との間に横たわっている。 「『なぜ』? ……なぜねえ……ははは理由か」  軽く握った拳を自分の口に当て、その男は相好を崩す。思わず笑ってしまったといった体で。余裕。こちらの焦燥やら驚愕とは無関係に、男は余裕という名の空気の中で微笑んでいる。異様。こいつからは……得体の知れない奇妙さを感じる。  軽く僕らを睥睨すると、その男は力の抜けた表情のまま、口を開く。 「……決まっている。『二次元人』の地球征服。その足かけとしての日本侵略のためさ」  しかし、さらっと言ってのけたその言葉は、普段から言動がアレだと指摘されている僕からしても、相当にイカれたものだった。ざわつく面々。泡食って思わず乗り出して来た、みたいなピンクの戦闘服が視界の左端に入ってくる。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加