▲6二犬(いぬ)

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 現れては飛び掛かってくる金・銀・黒の「駒」たちを、逐一丁寧に薙ぎ払っていく。  腕を大して狙いもせずに振り回しつつ、キリないだろ、と思っていた僕だったが、徐々に、その密度のようなものが緩んできたように感じた。無限ではない。そのことが分かっただけでも上出来だ。身体はまだ動く。「ギプス」を外してからこっち、溜まりに溜まった曰く言い難い奔流のような力が、体表面を二重にも三重にも覆っているかのように、漲って感じる。 「勝負しろっ!! 先女郷(サキオナゴウ)ぉぉぉぉぅっ!!」  自然と腹から出た声は、時の九冠を呼び捨てだったけど、もうそんな事は関係ないんだ。  ……関係ねえんだぞぉぉぉぉおおおおっっ!!  跨っていた「獅鷹(しおう)」から軽やかに跳躍した僕は、宙に自然な感じで浮かんだままの目指す和服姿の男に、さらなる上空から襲い掛かっていく。 「『勝負』……勝負ね。いいだろう」  先女郷は相変わらずの余裕面を取り戻していたが、この必殺の間合いっ!! 全人類に成り代わりっ、貴様を討つぞぉぉぁぁぁぁぁああああああっ!! 「!?」  と、気合いをぶん回し気味で突っ込んでいった僕だったが、目標の細身の身体が、金銀に煌く何かに包まれていくのを狭まる視界の中、感知していた。 「わかりやすく『力』を顕現してやろう。そのための『巨大化』だ。たぶんに恣意的ではあるけどね。私はこういったわかりやすいものが好きでねぇ」  何だ? こいつの物言いが変わった? いやそれよりも「巨大化」? 瞬間、わざとらしい笑みを張り付かせたその眼鏡面さえも、まばゆい何かに覆われていき、見えなくなる。振り下ろしていった渾身の拳も呆気なく弾かれてしまった。硬いっ……!! 空中で何とか体勢を立て直した僕の元に、「獅鷹」が再びその背中を差し出してくれ、何とか落下は免れたものの、 <ハハハハハハハハハっ!!>  瞬く間に、おそらくは粉砕したはずの「駒」たちの破片が、先女郷のもとに集積していき、その身体を包み、肥大化させていくのをただ見ることしか出来なかった。
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