▲6二犬(いぬ)

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 でかい。そんな間抜けな感想が頭に浮かんでしまうほどに馬鹿でかいシルエットとなった先女郷。目測で全長50mはあるんじゃないかくらいの、動く物としては異常さを感じさせるほどの巨大さだ。その姿はもはや人間然としたそれではなく、腕が地表につきそうなくらいに長い、かろうじて二足歩行のような化物じみたフォルムへと変貌を遂げている。 <もっと、静かに、隠密裏に……ことを運びたかったんだけどねえ。『気付いた時には詰んでいた』。そんな局面を目指していたりもしたんだが>  饒舌になってきやがった。ヒトならざる物の姿になった先女郷は、その「化物」の首あたりから、上半身だけを突き出すようなかたちで、周りを囲んでいる僕たちや、人々の悲鳴や怒号が沸き起こるようになった地表を見下ろしている。  待て。「化物」の体表に何か……蠢く何かが見て取れた。 「!!」  人の顔。が、いくつも。見たことのあるような「取り込まれ方」ではあったものの、実際に対峙してみると、そのおぞましさはこちらの動きを止めるほどだ。老若男女は問わないようだったが、それらの表情は一律、苦悶。  ……野郎。今までの「犠牲者」たちを、その血肉にしていやがる。  僕は、滅多に発火することのない湿った心の奥底に、じくじくとした熱が広がるのを感じている。
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