△6三雜将(すいしょう)

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 新宿駅上空は、徐々に薄灰色の雲に包まれてきた。ぽつぽつと雨滴も感じるようになってきている。眼下に見えていた人々の姿も、わずかに残った警察消防報道関係の人間を除いては、ほぼほぼ見えなくなっていた。  戦いの、最後の戦いの場としての体裁は整った。しかし僕および仲間は、目の前で蠢く「化物」の巨大さと、その体表面のそこかしこで、様々に何かを叫ぶかのような表情をしている人間の「顔」の威容・異様に圧倒され、更なる巨大化を続ける先女郷(サキオナゴウ)の姿を見据えることしか出来ない。 <キミらもワタシと融合しないカい? 人類もコンピュータをも超越した『棋力』を得ることが……出来るカも知れなイ……>  もはや言っていることも意味不明となった「化物」。しかしその腕の長い類人猿然としたフォルムからは、化物の面目躍如とばかりに、軟体動物を思わせる大小様々な「触手」たちが何の脈絡もない部位からしなり張り出していて、さらに不気味だ。 <……だんまリかい……ナらば、そこで見物をシているトいい……この姿ニなったカらは……穏便・隠密裏などと言っテはいラレなくなルからナァ……>  触手たちが振動したかと思うや、それらが弾けるように細い「糸」のようなものに展開する。その黒い糸の一本一本が意思を持つ何かのように、てんでばらばらな方向を目指して伸長していった。  いや、方向はまちまちだが、それらは全て「地表」を目指している。 「やめろぉぉぉぉおおおおおおっ!!」  いやな予感を察知してしまった僕は、恐怖で強張ってしまった自分を鼓舞するために腹からの咆哮を一発かますと、先女郷の「本体」と思われる「化物」の喉仏付近目掛けて空中での突進を始める。 「!!」  しかし「糸」状の触手は僕の目の前に網のように集中して展開すると、行く手を阻みながら、さらにこちらを捉えようとしてくる動きを見せた。
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