▲1五金

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「……お誘いはありがたいんですが、やはり僕は……」  断ろう、と思って口にしかけた、その時だった。 「……チェストプレス、レッグカール、トライセプスディップス……」  老人が、悪い笑みを浮かべながら呪文のように唱えだしたその魅力的な単語群に、僕の思考は一瞬止まってしまう。 「シーテッドショルダープレス、ラットプルダウン、スタンディングカーフレイズ……」  何を……何を言っているんだ? 「……などを始めとした数々のトレーニングマシン、各種バーベル、ダンベルは無論のこと、トレッドミル、プール等も完備してある」  う、嘘だッ、このご時世にそんなご禁制の品々があるわけ…… 「我々の組織を侮ってもらっては困る。いるのだよ、世間には自らの肉体を密かに鍛え上げている人種が、まだ、相当数」  何……だと?  「特にこの社会を牛耳る輩に多いのは、不都合な事実。ゆえに我々のような地下組織が必要なわけだ」  完全にワルの顔になってきている老人は誇らしげにそう嘯くが、それが真実なのだとしたら。 「……ちなみに風呂には、正に湯舟のすぐ隣には、プロテインが最適な濃度で調合されて出てくるマシンがある。……想像してみるといい。ハードなワークの後、汗をざっと流した直後、熱めの湯に半身を浸けながら飲む、キンキンに冷えたプロテインドリンクを」  ……そ、そんなものが存在するのなら、ワーク後のゴールデンタイムを逃さずに、風呂でのリラックスタイムも共存させることができるじゃあないかッ。 「……少年、答えを聞こうじゃあないか」  最早、余裕すら見せている老人の言葉だったが、それに答える僕の言葉はもう、ひとつしか無かったわけで。 「僕の名前は、鵜飼(ウガイ) モリオ。……またの名を、ダイショウギっっレンジャーぁぁぁっ!! ヴェル、メリ、オっ、リィィィィィィオぉぉぉぉぁぁっ!!」  キメポーズで高らかに言い放った僕の中で、何かが切れるような、外れるような感覚が沸いて、  でも振り切れて、吹っ切って、  ……伝説が始まった。
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