△6七奔鬼(ほんき)

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<さア……もう面倒ダ。貴様ラごと、コの街と共に沈むガいイ……>  上空から先女郷(サキオナゴウ)の声が響いて来るや、僕らのロボが空中で下から支え抑えつけている紫の「怨嗟の玉」が、質量を増したかのように感じた。  いや、重さだけじゃなく、大きさも確かに増している……っ!! 「ぐううううううっ……」  渾身の力をロボの両腕に込めるも、もう手首くらいまでその「紫玉」の奔流のような表面に飲み込まれている。その大きさも今や我らがロボの体長と同じくらいまで膨れ上がっていた。地表までは目測約50mくらい。落として……たまるかっ!! <諦メろ……将棋の神が定めシ運命と見れバ、いいジャあなイか……将棋に支配されシ民が、将棋ニよる裁きヲ受けル……当然の帰結。当然ノ……結末と私ハ思うガネェ……>  先女郷の何かを超越してしまったような、もはや作られた音声のような声が響く中、僕は自らと仲間の力を集約させつつ、一縷の望みに賭けチャンスを狙っている。顔を伏したまま。その間にも宙をずるずると下降し続けてはいるが。 <鵜飼(ウガイ)くンといウのか……このくだラない将棋の世界をぶち壊シたいと思っテいるノだろウ……? 将棋が全テでは無イ、そう思っテいるンだロう……? してみレば、私たチは仲間なノじゃないカい? 私の軍門ニ下れバいい……私は将棋を極めシ存在……その超越的な棋力の前にハ……貴様ら人間共ノ、勝っタり負ケたりなど些末ナ事。すなわチ無意味。将棋なド、私の前でハ、既に無意味なもノでしか無イのダよ……>  完全にタガの外れたような世迷言だとは頭では理解できているものの、僕の思考を読んでいるかのような、その引き込むような、包み込むような頭蓋骨の中に響くような声色が、僕の思考を揺さぶって来る。  将棋を中心に回るこの社会に、世界に、疑問を持っていたのは確かだ。そしてそれを首謀した奴がそれを自ら破壊しようとしていることに戸惑いを覚えていることも事実だ。  だが。  だからといって、社会を、世界を否定することは飛躍してるだろ。何よりこの地球は、二次元人(おまえら)のものでは無い。
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