△7二鳩槃(きゅうはん)

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 マットに仰臥したままの先女郷(サキオナゴウ)の巨体……いいのか? 隙だらけだぞッ!! <ああーっとぉ!! ロボ選手っ!! 自らの右脚を半魚選手のその股の間に差し入れるっ!! これは出るか? フィニッシュホールドぉぉぉぉっ!?>  実況の声ががんがん響いてくるけど、名前は見たまんまの適当さだ。いやそれはいい。とどめを刺そうとしている、そんな僕の意を汲み取ってくれてるのは流石。そうだ、このタイミングしかないっ!! とどめを! お見舞いするぞ、先女郷ッ!! <自らの右脚に相手の両脚を絡めるように……っ!! そのまま強引に相手の身体を返すッ!! これは伝説のっ!!>  そう、伝説の、デスロック。 <……!!>  先女郷の両脚を極めたまま、その身体を裏返し、腰を降ろして固める。 <……っサソリが入ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 完璧にっ!! 決まっているぅぅぅぅぅっ!!>  この上も無いほどの巻き込み方で、がっちりと渾身のサソリ固めが炸裂した。外せないし、外さないっ!! 僕はロボの大胸筋(見えないけど)を誇示するかのように、胸を反らしていく。決まった、これで決まったと、実況の感極まったような声を浴びながら、今までの人生では味わえなかったほどの高揚感に包まれていた僕だったが、  ……ふと、嫌な予感が押し寄せてきていた。僕は肝心なことを履き違えているんじゃあないか?  相手をタップさせるまで追い込んでやると息巻いていた僕だが、え? 待てよ冷静になれ。タップって、そんなルールがあるわけじゃないし。  躊躇した、その瞬間だった。
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