▲7三天狗(てんぐ)

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 何が……起こった?  他の仲間の切羽詰まった声がわんわん響いているけど、何を喋っているのかは僕の今の頭では理解をすることが出来なかった。  ただ、僕の心臓の上あたりに、顔を伏せている流麗なミロカさんのことだけを見ている。茶色の髪からは、ふわりと良い香りが漂ってくるようで。    まるで心を開いて僕の胸に飛び込んで来てくれたような……あまりのことに演算能力がおかしな事になっている僕は一瞬、そんなロマンティックな光景を妄想してしまうけど。馬鹿か。  僕の胸のプロテクター辺りに広がってきている赤黒い液体が、ついに僕の右わき腹を通って、床に垂れ始めたのを見て、頭と、それだけじゃなく体の端々に至るまでが、急速に温度を奪われていくような感覚に襲われる。 「……」  ミロカさん、とその名前を呼ぶことは出来なかった。返事が無いことが恐ろしかったから。  ……僕をかばってか。僕なんかを。調子こいてしょうもない妄想で、勝手なことをやって仲間を巻き込んだ、こんな僕を。  ……度し難い自分を顧みた瞬間、頭の中は冷えきって、まるで真空になったくらいにクリアでからっぽな感覚に包まれていた。  周りの状況への知覚も戻ってくる。「黒い触手」は、この狭いコクピットの内部に、未だ何本も外壁に突き刺さってきたり、不気味に蠢きながら、獲物を求め、貫こうとしてくるが。 「……」  ……なめるんじゃあねえぞ。
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