▲7七踊鹿(ようろく)

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「……負けを認めたら、僕は潔く首を差し出すこととする。それが真実かどうかは……お前にだったら分かるはずだ」  先女郷にも、「全知」レベルの力は備わっている。僕が虚偽の言葉を発していないことは分かるはずだ。伝わるはずだ。  何を考えているのか、底も見えなかった眼鏡の奥の両の瞳が見開かれた。元々表情のバリエーションの少なかった眼鏡の細面と、初めて正対したような感覚が訪れた。伝わった。  僕は、頭と顔を覆うマスクの首との継ぎ目辺りを探るとロックを外し、がぼとそれを脱ぎ去ると、いつの間にか現れていた脇息の外側に投げ捨てるようにして置く。  汗がすごい。ひんやりとした空気に久方ぶりに晒されて少し開放感を感じつつも、最後の対局に向けて集中力は限りなく高まっていくかのようで。  「レッド獅子」としてだけでも無く、「鵜飼(ウガイ) 守男(モリオ)」としてだけでも無く、その双方で、お前と闘う。出で立ちはだから、こんな感じでいいだろう?  そして、そして。  ミロカさんの事は頭の片隅のさらに端っこに追いやろうとしていた僕だが、それは無理だった。なら、一緒に戦ってくれ。  君の評した「と金顔」を敵に晒し向けて、この対局を全うする。  願わくば、君がどこかで見ていてくれれば。
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