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報道のヘリは既にいなくなっていたが、代わりに静音のドローン数台が、盤面や僕らの姿を中継しているようだ。
局面は僕から世界中の棋士や将棋指したちに「発信」されているが、それでもこの世のものならざらんこの対局に、世界中から注目が集まっているのだろう。
火の出るような中盤の応酬も、表面上は静謐に過ぎ去っていった。いよいよ終盤の入り口。形勢は……混沌としていて分からない。
その時だった。
<……モリくん……聞こえる?>
ふ、と僕の思考に、沖島のそれが滑り込んで来る。何かあったのか?
<……ミロカは無事。軽い脳震盪>
そうか! それは今いちばんのいい情報じゃあないか。良かった、本当に。
……じゃあ何でそんな声が曇りがちなんだ?
<……このままだと、一手足りない>
なるほど、そっちの方が本題だったわけか。沖島の読みが間違っているとは考えにくい。そうか。結構追い詰めたつもりになっていたけれど、流石は時の九冠、ここいちばんでは、やはり……なのか。
「……」
「支持」される指し手も、今や四択くらいにバラけていってしまっている。明確な勝ち筋が……見つからないんだ。
……そうか。
「どうやら、勝負ありか。私の方はこのまま詰めろをかけ続けていけばいい。終わりだ。潔く首を差し出したまえ、『地球人代表』くん」
流れの全てを把握したのか、勝利を確信したのか、先女郷が今までの緊迫を解いて、やけにリラックスした空気を発すると、にやりと口を歪めて笑いかけてくる。
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