▲1七飛

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 真顔の沈黙のまま、新緑が覆いかぶさる歩道を往く。さわやかな外気とは裏腹に、僕の心は大分不穏の方向へとシフトしているのだが。 「鵜飼(ウガイ)くん、先ほどは取り乱してすまんかった。だが集団でコトに当たる以上、名前にも統率が取れていないことには、色々と不具合があるのだよ。そこは呑んでもらいたい」  取り繕うかのように穏やかな声で、老人は相好を無理やり崩した顔面で、こちらを見つつそう言ってくるけど、多分違うのだろう。人を面罵するまでの譲れないこだわり……まあ、僕がとやかく言えることではないが。 「……」  曖昧な笑顔でそれを交わす。「アジト」とやらを少し見学したら、速やかにおいとましよう、との決意を新たに、かなりの歩幅で足を運ぶ老人の後を、遅れないようについていく。  真正面に見えてきた鳩の森神社の灰色の鳥居は、やはり聖地としての威厳を誇っているかのようだ。周りの緑に同化しつつも、焦点を合わせた時の存在感が半端じゃない。  まさか、ここにアジトが……と畏れ多くも若干期待していた僕を当然のごとく裏切ると、老人は神社の右手を通り、坂の途中にあったやけに薄暗い公園へと足を踏み入れていく。  何故か階段を上る作りだったので、僕も訝しさを感じつつもそのさびれた感がひしひし押し寄せてくる佇まいの、狭い段差を体を横向けて上がる。
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