▲1七飛

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「……」  ネコの用足しに適した砂場と、最低限の骨組みだけで作られたかのようなすべり台、あとは何か丸太を模したような要らんメルヘン感のあるベンチ然とした切り株型椅子がふたつあるだけの、狭い公園だった。原色の色づかいが逆に物寂しさを誘う。鬱蒼とした柳の木がその少ない面積を覆いつくさんばかりに張り出されており、じんめり暗い。人影も無い。 「ここだ」  ここなのだろう。意外という感じはしなかった。ああ、まあそうだよねーみたいな、パズルのピースとピースとが嵌まり合ったような感覚……でも老人の言っていた魅惑の各種設備なんか影も形も見当たらないけれど。やはり、騙されたか。 「この下だ」  僕の胡乱な目つきを見て、慌ててそう言って切り株ベンチのひとつを指し示す老人。 下? とさらに怪訝な顔つきになった僕だが、老人はまあ見てなさいと制すと、屈みこんで手にした端末をその側面辺りに翳す。  次の瞬間、音も無くその切り株は横にスライドしていくと、その下にあった空隙を僕らに晒した。何だろう、テクノロジーってこうやって無駄遣いするものなんだー、と妙に納得させられてしまう。 「……ようこそ、我らが『千駄ヶ谷支部』へ。申し遅れたが、私はここの支部長をやっている、嘉敷(カシキ)という。改めて、よろしく。そしてようこそ! 鵜飼モリオ君」  老人がかしこまり、両手を広げるゼスチャーを交えて言ってくるが、どう見積もっても怪しいわけで。  僕の脳裏には、この人ら、もしや巷で流行りの「失踪事件」、その黒幕なのでは? との疑いが徐々に頭をもたげてくるのであった。
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