△1八玉

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 カシキと名乗った老人は、その黒い「穴」をまたいでから、その上で軽くジャンプすると、次の瞬間、僕の視界から消え去っていった。  何で無駄に勢いつけるんだよあぶねえよ、と思いつつも慌てて穴を覗くと、布が擦れるようなズオオオンという音がかなり下の方から響いてくる。こりゃあほんとに10階建てくらいの高さはありそうだ。  ただ、ここで怖気づいて逃げ出すというのも癪だったので、僕はゆっくりと穴の淵に一度腰かけてから、そして「棒」の掴み心地を掌で執拗に確認してから、穴の中へと身体を滑らせていくのであった。 両手プラス両肘あたり、両脚プラス両土踏まずを駆使して、びりびりと共振している金属棒を伝って落ちていく。  てっきり真っすぐ下へといくものだと思っていたが、金属棒は途中でぐにゃりと左へ右へと曲がりくねっていた。何故。  カーブの度に身体は右へ左へと振られ、あやうく振り落とされそうになるけど、必死でふとももを吸着させて事なきを得た。ジャージの内股部分のポリエステルが、摩擦による加熱で溶解・再固結してごわごわになったが。 そして金属棒の終点は、何故か床から2メートルは上空にあって、何故。  落下速度を殺しながら、足首をひねらないよう何とか両足から着地する。あぶないって、このアトラクション。     
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