△1八玉

5/5

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
 ガラスで区切られた向こう側にはプールで泳ぐ人たちの流れも見えたりで、凄い。本当……だったのか。まだ目の前に展開される光景が信じられずに、それらマシンの間を夢遊病者のようにふらふらとさまよう僕。  その時だった。 「ちょっと、邪魔」  呆気に取られていた僕の背後から、尖った声が掛かる。あ、すいませんと小声で謝りつつ、脇に退いて道を開けると、 「あれ見学? ……じゃないか。え? もしかして……」  怪訝そうな顔が、僕の目の前に突き出された。怪訝そうに細められていても、まだ大きなその瞳。すっと通った鼻筋。気の強そうな口許。結構明るめの茶色の髪は肩にかかるくらい。 しなやかな流線形を描く肢体は、メッシュが入ったぴったりとしたブラトップの黒いウェアに、下は七分くらいの同色のレギンスで覆われている。  え? 白昼夢? と思うくらい、僕の妄想がいつも描くような美少女と間近で対峙していたわけで。  驚愕が度を越した時に現れる真顔へと表情筋が移行しながら、僕は万が一にも現実だった時の事を考え、その見目麗しい姿を網膜へと焼き付けるために、大脳の演算能力をすべてそれに回し始める。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加