▲1九仲人(ちゅうにん)

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「……肩幅は割とあるけど……見掛け倒しってのはよくあるし……ちょっとこれ上げてみなさいよ、体重どれくらい?」  おおう、美麗少女(以下、ミロカさんと呼ぼう)が、初めて僕に話しかけてくれた……普段は女子からいないものとして扱われているこの僕に……っ!! そして絶妙なツン具合に、僕のやる気メーターは一気に振り切れてびくびく脈動を始めている。  いいところを見せたい……!!  嘉敷老人(以下、嘉敷博士と呼んであげよう)の勧誘を受けた時でも、こうまでは出なかったやる気が、僕の筋繊維一本一本に通電していくかのように漲る。  体重は85kgです、と緊張で声が上ずりながらもミロカさんにそう告げると、へえ結構あるんだ、と反応してくれつつ、僕の右前方にあったマシン……これは見たことだけはある、「ラットマシン」だ……のウェイトを調整してくれているようだ。シートに膝を突いて身を乗り出すミロカさんから、ふわりと柑橘系のいい香りが……いかん、静まれ僕の脈動ッ。 「60ってとこでしょ。このくらいは上がらないと話にならないけど」  値踏みをするかのような視線を送ってくるミロカさんだったが、そんな目で見られたら……っ。気持ちを深い呼吸で無理やりに落ち着けると、僕はそのマシンに相対してシートに腰を降ろす。  「ラットプルダウン」をやれと言うことなのだろう。僕はいかにもやり慣れていますよ風を装い、ネットで仕入れた知識を総動員して、シートやレッグパッドを調整していく。  足裏をしっかり地面につけ、肩甲骨を引き締めながら両腕を頭上のバーに伸ばす。小指薬指でしっかり掴み、中指人差し指を添えて準備完了。 「……いきます」  ミロカさんの方を見て、精一杯のさわやかな笑みを浮かべた僕だが、はやくやれ、みたいな実験動物を見る目で冷たく睥睨されただけだった。だが、それがいい。
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