△2一醉象(すいぞう)

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 いつの間にか、僕が腰を据えているラットマシンの周りには、遠巻きに取り囲む人の壁が出来ていた。  100kg……? マジで……? みたいな呟きが聞こえてくる。すぐそばのミロカさんは先ほどから微動だにしない真顔のままだ。何か僕はあかんことをしでかしてしまったのでしょうか…… 「ふ、フハハハハ!! もちろんこれが限界ではありませんぞ!!」  場の何とも言えない空気に、勝手に追い詰められてしまった僕は、耐えきれずにテンパり気味の大声で弁明を始めるのであった。がば、とシートから立ち上がり、改造学ランの上着のチャックをもどかしくも引き下ろすと、拘束された上半身を衆目に晒す。 「このリストバンドの重さは10kg!! それが二つで20kg!! 上半身を覆うこの『大棋士養成ギプス』の負荷が加わって『×2』の40kg!! そしてこの重さ15kgの『改造学生服』の負荷が加わればっ!! 『×5』の200kgは上げられるパワーが出せる寸法だぁぁぁぁぁぁっ!!」  そう、僕は常にこのような負荷を掛けて日常生活を送っている。  周囲にばれずに体を酷使するためには、これくらいしか方法がないから。全てヤミ業者に安くない金を支払って作ってもらった、僕の宝物であり、今では体の一部といって差し支えない、大切な相棒だ。 「……」  しかしまっとうな理論をかざし、その論拠も明らかにしたと言うのに、周囲はどよめきすら発しなくなってしまっている。何か……この完璧な理論に穴があったとでもいうのだろうか。  助けを求めるように、これまた真顔の嘉敷博士を見やるが、ぶつぶつと小声でククククレイジーユゥアクレイジボーイ……みたいな事を唇だけ動かして呟いているだけだ。
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