▲1一歩

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「まさかこんな所に、これほどの逸材がいるとは、思わなんだ」  第一声から、こちらの警戒レベルをぐんぐん上げてくる物言いだ。だがそれだけに留まらなかった。 「……選ばれし者、我らと共に、戦ってはくれぬだろうか」  ああー、春だもんね仕方ないかー、と、僕が完全無視の体で、今度こそ走り出そうとすると、 「君は……将棋から、愛されていない側の人間ではないかね?」  その老人の言葉は、意外な鋭さを持って、僕の背中から僕の心の核のようなものを突っついて来た。何だって……言うんだ。 「……確かに愛されてもいないし、愛してもいませんね。いけませんか? 将棋が、将棋がなんぼのもんだっていうんです? おかげさまでの、高三で『七級』足踏みの逸材ですよ? 僕は、徹底的にダメなんです。将棋というものが、そしてそれに振り回されているようなこの社会が、まったくもって理解できないダメな落伍者なんです」  初対面の相手に、いきなり胸の内を吐き出してしまった。これも春だからだろうか。でもどこか、すっとしたような感覚。後で厳重通告もんの発言だったかも知れないけど。 「ダメ、ダメ、ダメ、いいではないかね」  と、その老人は、いやにギラついた目をこちらに向けてくる。正気かそうでないかは、残念ながら判定できなかったけど。 「将棋に毒された奴らを、世界を、ひっくり返す。大いなる災厄に立ち向かい、人々を清浄で正常な世界へ導く、それこそが、我らが『ダイショウギレンジャー』」  ささくれだった褐色の指を、僕に突きつけながら放った言葉が、全ての始まりだった。  僕と、烏合の将棋戦士たちの、壮絶な戦いの幕開けだったのであった。
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