△2三銅将(どうしょう)

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 二人分の髪の香りなのか、甘い体臭なのか良く分からないし分からなくてもいいのかも知れないけれど、男を奮い立たせるようなフェロモン的な何かに誘引され、僕も三秒遅れくらいでその「扉」にたどり着いた。ミロカさんが横に付けられたパネルのようなものに指を当てている。 「!!」  ウイン、とかなりの速度で左右に割れるようにして開いた扉の先は、まあ予想通りのエレベーターのハコの中だったわけだけど。こっちから来れば良かったのに、との嘉敷博士に対する憤りは薄れやしない。 「……」  定員六名、といったところの大きさだったが、これ上昇速度速くない? 不安を感じさせるほどの揺れと軋みを起こしながら、エレベーターは上へ上へと突き上がっていく。 「!!」  今度はゆっくりと扉は開いたものの、その先の光景は驚くことに、JR千駄ヶ谷駅のホーム下だった。ここ地下無いよね? 「はやく出なさいよねっ」  ミロカさんに尻を蹴られつつ、その「日常」へとまろび出る僕。もう分からん。何が現実で、何がそうじゃないのかが。  自失の僕を促すようにして、ミロカさんとフウカさんは律儀に有人改札にて乗り越しの手続きを受けてから、また走り出す。僕も真顔でそれに続く。 改札から左手の方へぐるりと回り込んでいくと、そこはもう新宿御苑の敷地だ。開け放された門を通過し、先ほど「アナウンス」で言っていた「下の池」? だっけ。を目指しているようだ、多分。 「『イド』出現まで、あと三分」  砂利道を少し走る速度を落としながら目的地近辺へと到着する。楓の木々が池を覆うようにみっしりと緑の葉を生い茂らせている。これ、紅葉の季節に来たらすごいだろうな、と僕はまだ、現実よりの世界の思考にシフト出来ることを自分の中で確認した後、「イド」って何だろう……でも聞いてもしょうがないよね……と、異次元の思考に戻る。
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