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「……要は『二次元人』が湧き出て来るパワースポットみたいなもんや。『38メートル×35メートル』の正方形に近い長方形が、瞬時にこの三次元から切り離され、やつらとの対局の場となる、とまあそんなとこや」
全く息を切らせてないフウカさんが、くいくいと体の各所関節を伸ばしたり回したりしながら言う。競泳水着(鋭角)にジャージの上みたいなジャケットを羽織っただけというその姿は、やはりまずいんでは無いでしょうか。いや、まずくはないか。全くまずくはない。
「『イド』出現の中心から、『半径約50メートル』、その中でも『最も近くにいた二十人』が、『対局者』としてその『SGフィールド』へ引きずり込まれる」
僕が考え事をする風を装い、目の前の水も弾ける肢体を網膜に焼き付けていると、僕の右前方で端末の画面を見ていたミロカさんがぽつりと説明をしてくれる。
なるほど、だからその「イド」とかいう物が現れるところに先んじて馳せ参じ、わざと引きずり込まれるというわけですね。何かもっと効率のいい方法がありそうな気もするけれど、やはり妙案は出て来なかったので、これが最適解なのだろう。それよりも。
「……あの~、『二十人』って、老若男女問わず?」
池のほとりに視界をやっていた僕は、気になる物を見つけ、そう訊いた。
「……全ての人間だ」
つまらなそうにだけど、そう応えてくれたミロカさん。でも「全て」って。
池のほとりの遊歩道沿いに据えられたベンチの上で、幼稚園児と思しき水色のかわいらしい揃いのチョッキみたいなのを来た子供たちの集団が、将棋盤を広げてせっせと対局に興じているのが、僕には見えた。
ちょっと待てよ、僕らとその集団の他に、周りに人の気配はないぞ?
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