△2五奔猪(ほんちょ)

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 僕の体が赤い光に包まれたと思った瞬間、何か得体の知れない、硬いゼラチンの板みたいなものが、自分の胸を貫いたような、奇妙な感触を知覚する。  目の前が暗転して、青白いレーザービームのような細い光が縦横に走っていった。それらは正確に直角に交わると、見慣れた「九×九」の枡目、盤面を形成していく。  先ほどから言われていたように、その大きさは多分「38メートル×35メートル」の長方形なのだろう。ワイヤーのように張られた光の線で形作られた「将棋盤」が、空中に浮遊している僕らの足元に出来上がる。  周囲は、暗黒空間に大小さまざまな星を散らしたかのような、まるで宇宙だ。  僕の脳がいい感じにキマって、こんな現実離れした像を脳内に結んでいるのか、それともやはりこれは「現実」なのか、僕の一コ手前の頭では理解することは出来なかった。 「……やるやん」  僕の左前方で、張り出した双球の下でしなやかな腕を組みつつ浮いていたフウカさんが、そう白い歯を見せる。  周囲を見渡すと、その何もないが故に「黒い」空間に、僕ら3人の他には、先ほど僕の身柄を確保しようとしていた制服組の方たち4名が、驚愕の表情で浮いているだけだった。良かった、子供たちを巻き込むことが無くて。  フウカさんの奥面には、腰に両拳を当てたまま漂う、全身から怒気を発せられているミロカさんがこちらを物凄い眼力で射抜こうとしているけれど。  少し、強くはたき過ぎただろうか。美麗な顔の左頬が少し赤くなっているのを視認し、この「対局」が無事に終わっても無事では済まされないだろうな的、諦観が僕を襲う。  だが、それならば。  ここは一発、全力でやらせてもらう。ここ一番の、全力で。
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